耐震診断について
〔1〕耐震診断の目的
耐震診断とは既存建物が地震の脅威に対して安全に使えるかどうかを見極めるための行為です。いいかえれば、古い耐震基準で設計された既存建物に対して、その耐震性を再評価する、これが「耐震診断」と呼ばれているものです。耐震診断の結果、安全でないと判断された建物については、「耐震補強」を行う必要があります。
〔2〕現行の耐震基準
日本の建築物の耐震基準は、関東大震災以降の大地震を教訓に数次にわたり改正、強化されてきましたが、1981年(昭和56年)に大改正されたものが新耐震設計基準で現在適用されているものです。
〔3〕新基準の耐震性
新基準では、中規模地震(震度5強程度)においては建物の水平変位量を仕上げ・設備に損害を与えない程度(階高の1/200以下)にコントロールし、構造体を軽微な損傷に留めること、また大規模地震(震度6強~7程度)においては中規模地震の倍程度の変位は許容しますが、建物の倒壊を防ぎ圧死者を出さないことを目標としています。
〔4〕耐震診断が必要な建物
●老朽化した建物
- ・昭和55年(1980年)以前の建物(特に昭和45年(1970年)以前)
- ・老朽化が著しい建物
●バランスの悪い建物
- ・平面や立面の形状が不整形な建物
- ・壁、窓の配置が偏っている建物
- ・ピロティ形式の建物
- ・大きな吹き抜けのある建物
- ・混合構造の建物 (例:下部SRC造、上部RC造)
●大勢の人々が居住したり利用する建物
- ・庁舎、消防、警察等の官庁施設
- ・幼稚園、学校等の教育施設
- ・病院、診療所等の医療施設
- ・デパート、スーパーマーケット等の商業施設
- ・マンション
〔5〕耐震診断の手順
診断が精密になるほど時間と費用は多く掛かりますが、以下に示すように、建物の特徴に見合った診断方法を選択することが肝要です。なお、簡易な診断の段階で、耐震性能が十分であると判断された建物の方がより健全な建物といえます。
耐震診断フロー
予備調査
設計図書の内容確認により建築物が設計537図書どおりかどうかを概観し、診断内容(診断の必要性や診断レベル)を判断します。
診断レベルの設定
耐震診断は計算レベルの異なる第1次診断法、第2次診断法及び第3次診断法がある。
・一次診断法
柱や壁の断面積から略算される建物の強度を基準に診断します。 比較的耐震壁が多く配された建物に適した簡便法です。
・二次診断法
柱と壁の強度とじん性(=粘り強さ)を考慮して耐震性能を算出する手法で、一次診断より精密な判定法です。鉛直部材の強度のほか、建物のじん性も評価します。
・三次診断法
柱・壁に加えて梁の受けるダメージも考慮し、建物の保有水平耐力(地震力のような横方向の力に対する建物の耐力)を求める最も厳密な判定法です。
現地調査
主に、第1次診断法で必要となる1次調査と、第2次診断法・第3次診断法で必要となる2次調査に分けられます。より精度が求められる場合などは精密調査を行う場合もあります。
構造耐震指標等の評価
建物の保有する耐震性能は、構造耐震指標(Is)という指標を算出し、評価します。 IS値の目安(平成18年1月25日 国土交通省告示第百八十四号による)
- IS<0.3
- 地震に対して倒壊または崩壊する危険性が高い
- 0.3≦IS<0.6
- 地震に対して倒壊または崩壊する危険性がある
- 0.6≦IS
- 地震に対して倒壊または崩壊する危険性が低い